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岐阜地方裁判所 昭和45年(む)199号 決定 1970年9月30日

主文

被告人に対する昭和四五年九月一八日の勾留状による勾留を取消す。

理由

本件勾留取消の申立をなした弁護人は、前記当裁判所裁判官の発した勾留状による勾留の裁判は、さきに起訴された被告人に対する当庁昭和四五年(わ)第一八〇号暴力行為等処罰に関する法律違反(同法第一条の三、刑法第二〇四条)の罪と一罪の関係にある被疑事実を理由としているので、二重の勾留になる、と述べる。右の点で、本件申立にかかる勾留の被疑事実が同法律違反の集合して一罪と看做される罪の一に当り、それ以外でないことは、検察官も自認しているところであって、現に検察官は本月二六日受訴裁判所宛訴因変更申立書を提出し、本件申立にかかる犯罪事実を常習的暴行の事実の一として追加し、右事実として公判における審判を求める旨意思を明らかにしている。従って、右の範囲では本件申立人の二重の勾留の主張は理由があるといえる。

しかしながら検察官の意見は、勾留の対象は逮捕におけると同様、現実に犯された個々の犯罪事実をもって限定されるものであり、捜査の段階ではその身柄の確保に主たる目的があるのであり、常習一罪の実体法的観念による規制は、必ずしも手続法上勾留の裁判における判断の基礎となるべき審査の範囲と同じではないという主張に要約される。捜査の段階における勾留の機能を手続の実態に照らして考えると、右見解は十分に賛成できるものといい得る。

ところで、勾留は、捜査、公判の審判、刑の執行を確保するために被告人又は被疑者の身体を拘束する処分であることはいうまでもなく、従って捜査の終了した本件事案の現段階では、もはや捜査に関した目的をもって事を論ずることができないのは自明である。公判の審判の関係で考えるのに、既に起訴されている前記法律違反事件において、被告人に対しては、昭和四五年七月八日保釈許可の決定がなされており、本件追加の犯罪事実による勾留を維持するとなると、右保釈決定とはなはだしく首尾一貫しないこととなる。更に勾留を現時点以降継続するについてその必要を認めしめるに足る事由は、検察官においてこれを明らかにしない状況にある。そうだとすると新に追加された事実について勾留を維持することは、却って、前記保釈許可決定について明らかな障害を加える結果になる。かような形で提起された二重勾留の後の処置としては、一般的には、受訴裁判所が公判の審理の経過に従ってその判定を下すのが最も適当であると考える。しかし右のようにその法的効果につき疑義が生じ紛議を解決する利益があるのにも拘らず、検察官において勾留の必要につき格段の肯認すべき事由を示さない以上は、速かに法律上の争点の解決を図り、被告人の法的地位の保護を図る必要がある。

以上の諸点の判断の結果をまとめれば、本件申立にかかる新な勾留の裁判は、結局勾留の必要なきに帰したときに当ると認められる。よって刑事訴訟法第八七条第一項によりこれを取消すものとする。

(裁判官 岡山宏)

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